孤島の鬼 江戸川乱歩

江戸川乱歩は非常に著名な作家で、名前を聞いたこともない、という方は少ないでしょう。また乱歩といえばやはり、明智小五郎や少年探偵団シリーズ、また『天井裏の散歩者』や『人間椅子』などの短編を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。しかし、一番のおすすめは何か?と聞かれれば、私は『孤島の鬼』を挙げるでしょう。
本書は長編の推理小説で、昭和四年から雑誌で連載されていました。平成二十一年に角川書店から出版された文庫版が、比較的入手しやすいでしょう。映画『KILL BILL』でキャラクターデザインを務めた田島昭宇氏のイラストを使用した表紙がスタイリッシュです。
ちなみにこの文庫版、裏を返すと本の概要というか、さわりの部分が説明されているのですが、なんとここで、主人公の恋人が殺されることを予告しています。これはとんでもないネタバレ、というわけではなく、本の中でもかなり序盤で明かされることなのでご心配なく。
まずは非常に気になる書き出しから。この小説は、ある人物(主人公)の手記として書かれています。主人公はまだ三十歳にもならないのに頭髪が真っ白になっており、またその妻の左太ももには大きな傷跡があるのですが、なんだか「そこからもう一本の足が生えていたのを切り落としたような」傷跡だというのです。その理由を他人に聞かれた時、いちいち説明するのが大変なので、「これを読んでください」というために体験談を綴っている、とのこと。何だかよくわからないけれど、どうしてそんなことになったんだ?と思いながら読み進めると、物語は本筋に入っていきます。
主人公はごく普通の会社員なので、ある日入社してきたタイピストの女性に一目ぼれします。幸い彼女も主人公のことが好きで、ここから二人の幸せな日々が語られるのですが、読者はこの時点ですでに「この女性、死ぬんだよな……」とわかっています。いつ死ぬのかと思わせつつも二人は婚約。しかし割り込むように、別の男が恋人に求婚してきます。この男が曲者で、実は何年も前から主人公にアプローチしていた同性愛者。この時点でまだまだ序盤なのに、なんかドロドロじゃない?と思っているうちに恋人が殺され、しかも現場は密室。がぜん、推理小説らしくなってきます。
ここからは恋人を殺害した犯人とそのトリックの解明、さらに事件の黒幕を追って「孤島」へと向かうことになるのですが、ネタバレはこの辺にしておきたいもの。なぜなら、実際に読んでいただきたいからです。この小説が書かれた昭和四年という時代があまりに遠く、昔の本みたいだけど本当に面白いの?と思われる方もおられるかもしれませんが、面白いのです。ページをめくる手が止まらず、読了したときにはポカーンとしてしまうくらい。書き出しの部分の説明を読んで「気になる!」と思われた方は、ぜひお手にとってみていただきたい一冊です。