太公望 宮城谷昌光

カテゴリ:歴史・自伝 本の著者:

「封神演義」という有名な講談がありますが、それと同じ題材の中国歴史小説ですが、女?も仙人も出てきません。
古代中国の商王朝の滅亡を描いた、文庫本で上・中・下各巻約500ページの大長編小説です。
商王朝の最後の王である紂王によって滅ぼされた、羌という遊牧民の生き残りの少年が主人公で、後の「太公望」です。

炎の揺らめく草原の中を、少年の望は、6人の子供達を連れて駆けていく場面から、物語は始まります。
焦げる履の臭いと白い煙が見え、炎の熱さが頬に感じるような場面を必死に、幼い子供の手を引いて逃げる望は、
振り向くことが許されない状況に追われ、駆けて行くしかないのです。
やがて、商帝国ほ滅ぼすという目標に向かって、ひたすらに駆けていく事になります。

死去したばかりの商王帝乙の末子、受は体躯と知能と美貌に恵まれ、王の後継となります。
彼の即位は、商王朝の人々に商の繁栄を期待させるのですが、紂王は権力を強めるために遊牧民の征伐軍を出し、
華麗な宮殿を建て奢侈を好んで、民の暮らしは疲弊していきます。

父の遺言に従い、孤竹へ行く望は不思議な老人と出会い、老人のもとで剣術と智力を鍛錬し、2年の月日を過ごします。
商を滅ぼすため、時機を待ちながら、権謀術数を巡らし、やがて紂王を追い詰めていく、望です。
巨大な権力に立ち向かうため、時には身を潜め、時には大胆に紂王の側近に近づいていく、望の姿は鮮やかです。

有名な妲己も登場しますが、紂王を悪業に誘って王朝を滅亡に導いた悪女ではなく、紂王に利用された不幸な女性です。
「封神演義」に出てくるような、9尾の狐が取り付いた、妖術を操る毒婦ではありません。

紂王が滅んだのは王の驕りと、代々王朝で祀り事に、人命を捧げるという秘密の儀式を、大げさに暴いて人々の恐怖を煽った結果です。
歴史というのは、勝利した者によて綴られていくものであれば、事実はこんな物であっただろう、という作者の視点の冷静さは合理的です。
歴史に名を残した「太公望」の真実が、リアルに感じられる物語です。

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