行ってはいけない廃墟

これは僕が高校生の頃の話です。
僕にはある趣味がありました。
それは廃墟巡りです。
よく休日を利用して、僕は遠征を繰り返していました。
情報の主はネットと同じような趣味をもった人との交流からでした。
ある日、いつものようにネットサーフィンをしながら情報を探していると、ある過疎化した掲示板を見つけたのです。
たぶん、今でも残っていると思います。
そこでの書き込みは数年前から止まっていたのですが、その中でひとつ面白いレスを見つけたのです。
そのレスによるとある山奥にある廃ホテルがかなり良い状態で残っているということでした。
後に続くレスに詳しい場所と写真が添付されていました。
幸か不幸か、その場所が僕の住んでいる地域から、そう遠くない場所にあり、僕は早速休みを利用して廃ホテルに向かう計画をたてました。

やがて終末となり、僕は朝方から家を出ました。
バスや電車を駆使し、何とか廃ホテルのある山までたどり着きました。
人気はほとんどなく、車もほとんど通りません。
どことなくおかしな雰囲気が漂っていましたが、その時の僕は好奇心の方が強かった。
構うことなく山の中へ入って行きました。
途中に進入禁止の看板が目に入りましたが、廃墟周辺はどこも同じように看板を立てているもので、僕はそれを気にすることはありませんでした。
それから2時間は経過したでしょうか。
道が分からなくならないように木に目印をつけていたので、迷う心配はなかったのですが、思っていたよりも深い山でした。
廃墟巡りで一番大変なのは廃墟を探すことです。
だいたいネットなどで掲載されている廃墟でも具体的な道筋を書いてるものはほとんどありません。
あまり詳しく書いてしまうと、簡単にたどり着けるようになり、ルールを知らない者たちに荒らされてしまうからです。
そういった暗黙の了解のようなものが廃墟巡りにはありました。
今回の廃ホテルもそうで、山の中とまでしか記載されていませんでした。
そこからは自分の足で探すしかないのです。
朝方出発したにも関わらず、陽は徐々に傾き始めていました。
それからさらに1時間ほど彷徨い、僕はようやく廃ホテルを見つけました。
レスに書いてあった通り、とても状態が良かったのを覚えています。
おそらく人がほとんど訪れていないのでしょう。
先まで山を彷徨い、へとへとだった僕はその姿を見ただけで元気になりました。
ホテルの入り口は古ぼけた鎖で閉められていましたが、窓が割れていたのですんなりと中に入れました。
中は廃墟独特のよどんだ空気をしていました。
この時が丁度、夕方だったと思います。
足下がくらいのでライトをつけて探索します。
壁はコンクリートが剥げ、床にはガラスが飛び散っていました。
もう見ることもかなわない禿げたピンク色の公衆電話にぼろぼろの電話帳。
埃をかぶったソファー、古くなった日用品の数々。
今までで一番の廃墟でした。
全部で4階。地下もありましたが、そこは廃材があって入れなくなっていました。
あらかた全部回った頃には陽が沈んでおり、いつもならそろそろ退散する頃合いだったのですが、僕はなぜか此処から離れたくない、という気持ちでいっぱいになっていました。
そこから記憶が曖昧なのですが、なぜか僕は地下に行きたくてたまらなくなり、廃材をどかし始めていたのです。
どのくらいの時間がたったのか覚えていません。
ただ真っ暗だったのを覚えています。
道を塞いでいた廃材を全て退かし、僕はライトをもって地下へと入って行きました。

地下は真っ暗。真っ暗というよりかは足場以外何もない状態でした。
だんだんと自分が浮いているかのような感覚になり、足がおぼつかなくなりました。
このあたりから段々と意識がはっきりし始め、異常だと気がつきました。
何もない真っ暗な空間にライトの明かりがどこまでも伸びていたのです。
このまま永遠と暗闇を彷徨うような気がしました。
途端に怖くなり、僕は地上へ上がろうと戻りだしました。
しかし、いつまでたっても階段が見えてきません。
気が狂いそうになりながらも僕は走りました。
後ろから何かが近づいてきている気がしたからです。
どこからかかすれ声が聞こえてきます。
それも一人二人じゃない。たくさんの声。
何を言っているのかは分かりません。
でも確かに、ここには何かがいました。
そこからの記憶はほとんどありません。
かすれかすれに階段をのぼってホテルを出たのは覚えています。
気がつけば朝となっており、山の入り口近くのベンチに座っていました。

僕はこの一件以来、廃墟に行くことはなくなりました。
後日、あの過疎化した掲示板に警告を書いておきました。
「絶対にあのホテルに行ってはいけない」
すると信じられないことにほんの数秒でいくつものレスがつきました。
「ずっと見てたよ^^」
たった一言。
その言葉の羅列がスレッドいっぱいに埋まり、僕はすぐさまブラウザを閉じました。
僕は今もあの日の悪夢を思い出します。

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