虫の知らせの体験

もう数十年前になりますが、同い年の仲の良い幼な馴染みがいました。

小学生以前からの遊び仲間でしたが、少し離れたところで鍋釜などの金属を溶かす工場の敷地内で家で生活していました。
彼の父親はこの工場の従業員で、溶鉱炉のような所に鍋釜などを入れてそれをとかし、型に流し込み、アルミなどのインゴッドのようなものをつくっていました。

そんな一家も、父親だけはこの工場で働いていましたが、中学生1年の頃に近隣の市へと引っ越してゆき、離れ離れとなっていました。

それから程なくした頃、その工場につながる空き地で、弟とその仲間達と遊んでいると工場前で車が止まりました。
そして、その車の中からはあの幼なじみが車から降りてきました。
不思議に思いながら声をかけましたが、彼はにっこりと笑うだけで、手に写真と白い箱を持った人達と工場の敷地へと入ってゆきました。

なにが起きているのかわからずにポカーンとしていましたが、一緒に来ていたらしい中年のオバサンが、彼の父親が亡くなったと耳打ちしてくれたことで全てを察する事ができました。
家に戻り母親に話すと、母親は慌てたようにして工場へと向かいましたが、幼なじみの一家はすでに車で帰ってしまった後で会えなかったようです。

その後に聞いた話しでは、溶鉱炉で使いっていた灰に水をかけた時、その熱い灰が蒸気で舞い上がって大やけどをしたのだといいます。
病院に運ばれましたが、それから数週間後に亡くなったという話でした。

最後に、思い出の地と職場を訪れた時に、そこに偶然にも私達が遭遇したというものでした。

幼なじみは一人っ子で、彼の家には入り浸って遊んでおり、そんなこともあって、彼の父親には色々と可愛がってもらっていました。

なにより、普段余り遊ぶ場所でもなく、急に思い立ったかのように弟と他の仲間と連れ立っていった事などを考えると、彼の父親が最後のお別れのおり、私達に会いたくて、虫の知らせとしてあの場所に呼んだのかもかもしれないと思っています。

それから後、幼馴染みとは合うこともなく時間は経過しましたが、私達が遊んでいて出くわした場所は駐車場となり、
あの工場はその後に火事を出したり、排煙などの問題もあって工場をたたみ、今では神社となっています。

今では桜の木が大きくなり、毎春美しい花を咲かせていますが、彼の住んでいた借家も、溶鉱炉の合った工場を覚えている人も今ではほとんどいなくなっています。
かつての面影は殆ど亡くなりましたが、傍らに残る林だけがかろうじて面影を残しているのみです。

そして、その神社の前と駐車場を横切る時、あの不思議な虫の知らせとでも言うべき出来事を時折思いだすのです。

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