貧困のない世界を創る ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義 ムハマド・ユヌス

カテゴリ:ビジネス書 本の著者:

この本を読んだキッカケは、近所の図書室でビジネス書を探していた時にたまたま目に付いたからです。
それまでの私にとって、ビジネスとはどれだけ利益を生むかが最重要課題であり、自身の成功のための手段という認識でした。

貧困層に対するボランティアなどは富裕層が道楽で行うべきものであり、一般人が従事するのは、貴重な時間をどぶに捨てるだけの自己満足だと軽蔑すらしていました。

そもそも貧困層を救うということ自体が、ただの理想で実現不可能な事柄だと思っていました。限りある資源やエネルギーを一部の人間が独占しているから今の資本主義が成立しており、貧困層がいなくなればその地盤が崩壊します。結局すでに出来上がってしまったピラミッドを崩すことは、絶対的な暴力でも行使しない限り不可能な話です。資本主義とは言うなれば巨人同士の札束の殴り合いで、貧困層はそもそもゲームに参加すら出来ないからです。

しかしこの本では、貧困のない世界を創るために、ビジネスで新しい資本主義を生み出そうと提示しています。
二〇〇六年度にはノーベル平和賞も受賞していると記載されているため、すでに結果を出しているということです。
ただの理想論としか思えない世界が本当に実現できるのか、期待半分冷やかし半分といった気持ちで本を読み進めました。

まずこの本の著者であるムハマド・ユヌスは、世界で最も貧しいと言われているバングラデシュの生まれであり、物語も同国が舞台となっています。
経済学の教授である彼は、自国の貧しい窮状を目の当たりにし、ある行動に出ました。
それが農村部の貧しい人達に無担保で小額融資をする、「マイクロクレジット」であり、彼が主導するグラミン銀行の設立に繋がりました。
銀行業務など何も知らなかった著者が、ただの理想論から貧しい人達に希望とチャンスを与えるため、無担保で融資を行ったのです。

それがどれだけ馬鹿げたことか(失礼)、ピンとこない人もいるかもしれません。でも例えばホームレスに近い生活を送っている人が、銀行に行って「生活を立て直すために小額のお金を貸してください」と言っても、丁重にお断りされるだけでしょう。何故なら担保も信頼もない貧乏人にお金を貸す銀行など、存在しないからです。
実際バングラディシュにも、そんな銀行はありませんでした。そして同国の政府も貧乏人を助けようなど、あまり考えていませんでした。
そもそもこの国の貧乏人は資産も信頼もないのは当たり前で、文字の読み書きすら出来ません。必要な書類の内容を理解出来ない人たちに、誰が大切なお金を貸すでしょうか。

だからこそ、著者は行動に出ました。最初に彼が助けたのは、四二世帯で八五六タカ、アメリカ・ドルに換算して二七ドルの借金を、ポケットマネーから出して金貸しに返済して上げたことです。
わずかな金額で助けられる人々が大勢いることを知り、彼は大学構内の銀行に行って、貧しい人々にお金を貸すよう説得しました。
しかし上記の理由で断られたため、彼が銀行からお金を借り、それを貧しい人々に融資するという方法を行いました。
その結果、驚くべきことに貧しい人々は、毎回決まった日時にローンを返済したのです。
そして徐々に彼の活動に共感する協力者が現れ、「貧者の銀行」であるグラミン銀行が設立されました。

ここまでが序章であり、彼の理想とそれを実現するための型破りな行動は、多くの人を巻き込み世界中へと広まっていきました。
政府が行うトップダウンの施しではなく、借り手自身の努力によって人生をチェンジさせることが出来る、最底辺からのボトムアップだからこそ、ここまでの共感を呼んだのだと思います。
銀行や投資家がより金持ちになるための融資ではなく、社会の大部分を構成する貧乏人にお金を貸して、その結果みんなが豊かになる、こんなに素晴らしいことは既存の資本主義の枠内では到底起こりえないからです。

著者は今でも精力的に活動し、彼の理想に賛同する人は日増しに増え続けています。
真の資本主義とは金を稼ぐことだけが目的ではなく、自分が生活する社会、ひいては世界を豊かにするために行うべきものだということがよく分かりました。
ノーベル平和賞を受賞したのも納得の世界貢献であり、貧乏人にお金を貸すべきではないという既存の価値観に風穴を開けた、驚愕のストーリーでした。
現在先進国と呼ばれる国で当たり前の幸せを享受している人にとっては、必読の一冊といえるかもしれません。

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