夫婦善哉 織田作之助

カテゴリ:小説・文芸 本の著者:

時代は大正から昭和にかけての大阪です。しっかりものの蝶子は貧乏な天ぷら屋の娘として生まれました。17歳で芸者になり明るくお転婆な性格から大変人気のある芸者になりました。そこに安化粧問屋の若旦那で妻子持ちの維康柳吉が現れて、出会って三月で良い仲になり、柳吉が東京に集金へ行くのを機に駆け落ちをした芸者蝶子と若旦那、維康柳吉の関係を描いた短編小説です。

駆け落ちした男と女の、他人には窺い知れない仲を「斬新な文体」で描いているため、流し読みをした程度では文章が頭に入ってこず、ゆっくりと時間をかけて丁寧に読みました。最初こそ意味は分からなかったもの、読み続けるにつれ著者、織田作之助の独特な魅力に引き込まれていきました。

きれいにまとめられた物語というよりは、ダメな男と男勝りな女が下町特有のごてごてした大阪を背景にあまりにも生活観溢れるお話ですが、次々と商売を試みても、維康柳吉が全ての商売を台無しにし、それを蝶子が立て直していくも商売が続かず維康柳吉に対して苛立ちを感じても彼から離れられない蝶子。意志の弱い夫を、気の強い女房がささえて押し上げて行くという典型的な大阪夫婦の様が、文章を通してありありと浮かんでくるのです。

もちろん大正時代でも今でも、こんな彼のような存在は「ダメンズ」と呼ばれる部類になるし、歓迎できるものではありませんが、一途に愛している人だからこそ、ダメだと思っても離れられない蝶子の気持ちがしっかりと伝わってきます。とはいえ、読み続けるうちに織田作之助をどうしても受け入れられない気持ちになりましたが、更にその気持ちを強くしたシーンが、蝶子がガス自殺未遂をする場面です。自殺未遂をするほど悩む男と居て彼女は幸せになれないじゃないかとヤキモキしていた気持ちが、報われる時が来ます。

維康柳吉の父が無くなり、一月ほど姿をくらました彼が、ひょうひょうと蝶子の元へ戻ってきます。そして、蝶子を法善寺境内の「めをとぜんざい」へ誘い、二人で仲良くぜんざいをすすったのです。その時、「ああこの二人は、これからもこうして生活を続けていくんだな。」と思いました。これが他人から見て苦労をしている出来事もこの二人にとって当たり前の日常なのだと。生活のどうしようもなさをこうもリアルで感情移入できる作品を生み出せる織田作之助に感服します。

年を重ねるごとに違った見え方になるのは、私も人生の経験を重ねて苦労を知ったからでしょうか。何度読んでも面白い夫婦善哉は名作です。

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