舟を編む 三浦しをん

カテゴリ:小説・文芸 本の著者:

辞書を編集する人の物語です。辞書を作るということに情熱を持って生涯をかけて取り組む人がいることを意識させられ、驚きました。
携わる人々の、辞書に対する情熱の種がどこにあるのか、何を喜びとして取り組んでいくのか、ということに興味を覚えました。この本では、登場人物の中の数人の視点を持って物語がすすみます。

 子供の頃から言葉の奥深さを知り、辞書を作る人になりたいと明確な辞書への情熱を持ち続けてきた編集者が、出版社を定年退職するにあたり、後任者を探すところから、始まります。地味で変わった人と評される人物を観察し、本棚を整理するしぐさを見て、辞書の編集に適任と見極めるところには、はっとさせられました。辞書に取り組み続けてきた人の目でした。そして後任に就いた、まじめ、なる人物が、この本の主人公です。地味で不器用なまじめの人となりや、まじめ本人の視点からみた周りの世界との関わり、そして、辞書作りに取り組む、まじめならではの姿勢などが、非常によく描かれ、とてもおもしろく読み進めることができます。また、その周囲の人物たちの視点での文章によって、それぞれの人の仕事への考えや、まじめに引っ張られるようにして辞書にのめりこんでいく心理状態や、それぞれの持つ適正などもあきらかになっていきます。

 辞書を作るという作業のそれぞれの段階も、興味深いものでした。言葉を収集し整理すること、原稿の執筆にまつわるあれこれ、校正の大変さ、それから、装丁や、紙など、それぞれの部分に関わる人々の、真剣な取り組み。たくさんの工程を経て、携わる人々に訪れるいろいろな変化を乗り越えて、15年の月日を経て、辞書が出来上がっていきます。今、ここで、自分ができることに誠心誠意とりくむ、ひとりひとりのその姿勢が集まった結果、辞書という大きな言葉の海をすすむ舟が出来上がるのです。辞書の完成に、まるで自分が取り組んだことのように、感動しました。自分が今できること、自分だけではできないこと、情熱のありか、そういったものを見直す気持ちになりました。

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