怖い絵 中野京子

カテゴリ:歴史・自伝 本の著者:

一枚の絵。それが描かれた背景や歴史的事実を知ると、
目で見ただけでは判らなかった恐怖が浮かび上がってくる…。
それを教えてくれるのがこの「怖い絵」です。

現代絵画は鑑賞する際、それを見る人の感性にすべてが委ねられていると言えるでしょう。
しかし、この本に登場する16世紀~20世紀の絵画は、その背景を知ってこそ、
真の意味を知ることができるというのです。

「恐怖」とひと口に言っても、色々あります。
殺人の場面であれば、それが実際に起こった事件なのか、神話を元にした空想画であるのかわからなくても、怖いと感じます。

しかし、たとえば、ホルバインの作になる「ヘンリー八世像」を見てみましょう。
ただ眺めるなら、たいそう立派な衣装をつけた、がっちりした体形の、
ちょっと怖い顔をした中年の王様の肖像、それだけです。
でも、この王様が、6人の妃のうち2人を断頭台に送ったことを知ったら、
それだけで、「いったいどういう人物なのだろう?」と思うし、
その眼つきの鋭さに言い知れぬ恐怖を感じるでしょう。
まして、断頭台へ送られた一人がエリザベス1世の母であったと知ったなら…。

「マリー・アントワネット最後の肖像」は、断頭台へ荷馬車に乗せられていくアントワネットの姿をスケッチしたものですが、その作者・ダヴィッドが他にどのような絵を描いていて、どのような生涯を送ったのかを知れば、その哀れな女性の絵は、また別の側面を見せてくれるのです。(ちなみにかの有名なナポレオンの戴冠式の絵の作者です。)

その他、一見、田舎の美しい風景にみえるブリューゲルの絵の意味や、貴族の兄弟のとても愛らしい肖像画が、どうして恐ろしいのか、作者は語っています。神話を元にした殺人場面の真の怖さも…。作者・中野京子さんの語り口の上手いこと。ぐんぐんひきつけられます。

この本をきっかけに、絵画に、画家に、歴史に興味が湧いてきます。
「怖い絵」シリーズは3巻まで出版されており、この3冊を読むだけでも、今まで知らなかった世界を覗くことができました。

西洋史好きの方、知識収集に凝り性の方など、嵌ること請け合いの一冊です。

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