くっすん大黒 町田康

カテゴリ:小説・文芸 本の著者:

『くっすん大黒』は現在は高名な純文学作家として活躍する町田康の処女小説です。そもそも『くっすん大黒』はある文学新人賞の最終候補になったものの落選したところを
作家・筒井康隆によって見いだされ激賞されることで注目を浴びることになった作品でもあります。

『くっすん大黒』の主人公は、定職に就かず1日を部屋でただ酒を飲んで過ごしている、だらしのない男性です。その主人公が、妻が酒を飲ませてくれないと愚痴るところから作品は始まります。飲ませるも何も、妻は出て行ってしまい、主人公は妻に捨てられてしまったのでした。そこで主人公は、部屋の中にめぼしいものはないか物色し、大黒様があることに気づくのです。主人公は、大黒様を見つめているうちに、なんとも奇妙に憎たらしく感じてしまい、大黒を捨てようと決心します。しかし主人公は、大黒を持って外に出たものの、その大黒を捨てることが出来ず、さまざまな騒動に巻き込まれていくことになるのです。
『くっすん大黒』はこのような物語ですが、この小説を旧来的な読み方をすれば、捨てるに捨てられない大黒とは、主人公そのものをさしていると言うことになります。しかし、この小説においては重要なのは、そのような文学上の象徴性よりも主人公の語り口なのです。

終始一貫してなげやりな関西弁で語られ続ける猛烈なモノローグは、数ページ毎に笑いを誘い、100ページにも満たない小説でこれほど笑えるものは他に見当たりません。
主人公のだらしのなさや、ふがいなさは、太宰治の小説に出てくる人物にも共通するものですが、太宰の小説が、絶望的で暗く、楽しめるものではないのと好対照に『くっすん大黒』は、主人公の絶望を知らない笑いの精神によって、読むものに笑いと救いをもたらしてくれるのです。

中盤には、強烈なキャラクターの関西のおばちゃんも登場します。そのおばちゃんと主人公との掛け合いは、まさしく漫才のようでもあり、この作品が関西出身の人でないと書けないものであることがわかります。
『くっすん大黒』は下品なところがあるものの、誰が読んでも笑える代物であるため、幅広い世代の人が楽しめる小説であると思います。

良い書評でしたら共有お願いします

関連書評

マリアビートル 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎のエンターテイメント娯楽小説「マリアビートル」は、前作の「グラスホッパー」の続編となってい

記事を読む

ブレイブ・ストーリー 宮部みゆき

宮部みゆきさんといえば有名なミステリー作家ですが、 そんな宮部氏がファンタジーのジャンルとして書か

記事を読む

死神の精度 伊坂幸太郎

この話は死神が人間界にやってきて、何かで死ぬべき人の候補となった人についてまわり、最終的に死ぬべき人

記事を読む

空の中 有川浩

最近読んだ中で、有川浩の初期の作品、自衛隊三部作と呼ばれている中の一冊、「空の中」が楽しめました。

記事を読む

アキハバラ@DEEP 石田衣良

読後の爽快感が最高です。石田衣良作品はどれも好きですが、この作品「アキハバラ@DEEP」はその中でも

記事を読む

月間人気書評ランキング

既知からの自由 ジッドゥ・クリシュナムルティ

簡単に言えばこの本には真理が書かれています。それは痛快なまでに真実なの

学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話 坪田信貴

この本は学年でビリで偏差値が30以下のギャルが進学が危うい状態だったの

甲賀忍法帖 山田風太郎

山田風太郎氏のいわゆる「忍法帖」シリーズの第一作目です。深く考えずに読

孤島の鬼 江戸川乱歩

江戸川乱歩は非常に著名な作家で、名前を聞いたこともない、という方は少な

阪急電車 有川浩

図書館戦争で有名な有川浩の作品です。 阪急電車。近畿圏内の方しか

→もっと見る

PAGE TOP ↑