ホテル・ニューハンプシャー ジョン・アーヴィング

カテゴリ:小説・文芸 本の著者:

1930年代のアメリカの夏、メイン州のアーバスノット・バイ・ザ・シーで19歳の男女が出会い恋に落ちることから始まる文庫本上下2冊の長編小説です。

このカップルの次男ジョンによって語られる家族に襲い来る数々の苦難とささやかな幸福の物語です。
この作者の趣味なのか熊が家族のパートーナーのように登場し死んでいましますが、それは別の形になって彼らの前に再登場します。
この破天荒なシュチュエーションがコミカルであり、哀しみを深く沈ませないメタファなのでしょう。

アメリカという国に根強く残る人種差別と暴力と、歪んだ性差別等が描かれています。
そして古きアメリカとウィーンのノスタルジアが家族へのそれぞれの想いが切なく、読者の胸を熱くしてくれます。

思春期を迎え、様々な悩みを持つ子供達のそれぞれの出来事と彼らを取り巻く個性的な人々とともに、自分もまた彼らの青春を疑似体験したかのように思えます。

印象的なのは家族が力を合わせホテルを開業する事になり、電気が通ったその夜に全室明かりを灯してお祝いをするという場面が家族の微かな希望と幸が見えるようで、微笑ましくなりす。

家族が常に寄り添っていたのにホテルを開くためにウィーンに移って行く時、初めて家族を失う悲しみに出会い、喪失感をかかえながらも生きていく姿に励まされました。

作者が書きたかったのは家族愛を通して決して解りあえない男女の本質と、人間の内に秘めた破壊本能は気がつかなくとも誰もが持っているという事なのでしょう。

人は知らないうちに、誰かを傷つけることが多いのです。
それを否定するのは偽善でしかなく、自分でも制御不可能なエゴイズムと、如何に折り合いをつけていくのか、自分に問いかけるきっかけになりました。

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