昭和という国家 司馬遼太郎

カテゴリ:人文・思想 本の著者:

昭和史というものは、どんな本を読んでも、どんなドキュメンタリーを読んでも、私には理解ができませんでした。何故、日本は負けるとわかっていながら、世界を相手にどんどん戦争を仕掛け、滅びてしまったのか。回避できなかったのか理解できませんでした。作者もその理由がよくわからず、昭和元年から敗戦までの昭和20年までを「魔法の森」と称し、「統帥権」という明治政府が作った制度が結局は、日本を戦争に突き進ませてしまったと平易な言葉で論じています。

私は、敗者側から見た「明治維新」に関心を持って、たくさんの本を読んできました。「明治維新」自体は、尊皇攘夷思想により、天皇の名の下に鎖国を続け、外国人を排斥する運動だったはずなのに、手の平を返したようにあっさりと尊皇攘夷思想を捨て、富国強兵と近代産業振興を進めた武士革命です。そして、王政復古ではなく、天皇には権威を与えず、薩長閥による専制政治が進められた独裁政府でもあったわけです。傍から見れば、江戸幕府から薩長独裁のようなものでした。しかし、それでは近代国家とはいえなかったため、明治憲法を制定し、議会を最高意思決定機関としました。ここに近代国家として日本が誕生し、意思決定のためのさまざまな優れたシステムを作ったにもかかわらず、なぜ日中戦争、太平洋戦争に突き進んでいったのか、どうにも理解できなかったことを、氷解してくれるのではないかとワクワクして読みました。

これまでの昭和史の本は、軍部が台頭し、議会機能が麻痺し、軍部の独走により、戦争を拡大して行ったとしか書いていません。しかし、この本は、明治維新と昭和史をつないで考察しているところに新鮮な発想があり、著者の着眼点が大変良かったと思います。

明治政府が、薩長閥の独裁権力を残すため、「統帥権」という権力装置を作ったことが結果的に戦争への道を突き進んで行くこととなったということを知り、特に「山形有朋」を始めとする長州閥に対しては、憎しみしか沸いてきません。もしも、維新三傑が暗殺や自害や病気でバタバタと倒れていかなければ、「山形有朋」のような権力に固執する小物が天下を取って私腹を肥やすことなどなかったのが、残念でなりません。
戊辰戦争前に、徳川慶喜がもう少し頑張って、坂本竜馬などの船中八策を取り入れ、江戸幕府を立憲君主制に変えていたのなら、全く違う日本国家が誕生していて、昭和の時代もまた別な歩みを辿ったと思うと、複雑な気持ちになります。

私が今生きている瞬間もまた、歴史の時代の中の瞬間です。私自身が生まれ生きているのも、歴史の結果です。そう考えると、私自身もまた歴史の中に存在する一人です。そう考えると、幸福な時代に生まれることができたことに感謝する気持ちになります。このような平和な時代に生まれたのも、歴史の偶然の中で得られたものであり、この幸福な時代が何故今あるのかをこの本は気づかせてくれ、この平和な瞬間を大切に過ごしていきたいと思います。

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